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こころの健康

[2026.06.07]

こころの健康について、産業医をしている学校の職員向けに書きました。今までのブログをかいつまんでまとめたものです。

 

1.感情が心のエネルギー源

 勉強したいのに、つい遊んでしまう。ダイエットしなきゃいけないのに、つい食べてしまう。そういう経験は誰にでもあると思います。

 理屈では、勉強した方が良いし、ダイエットした方が良いことは分かっています。でも、できません。なぜかというと、遊んでいた方が「楽しい」し、食べた方が「うれしい」からです。

 人の行動のエネルギー源は感情です。人は、「楽しい」とか「うれしい」という感情に突き動かされいるのです。

 理性的(意識的)に行動しようとするあまり、感情(無意識)を制限しすぎる人がいます。そして、制限できない自分に嫌気がさして、気分ちが落ち込んでしまいます。「気持ち=感情(無意識)」を、いつも封じ込めていると、「気持ち=感情(無意識)」が弱って、落ち込んでしまうのは当たり前です。

 感情(無意識)を賢く表現することが心の健康につながります。感情(無意識)を理性(意識)で抑制するのではなく、感情(無意識)を理性的(意識的)に表現することが大切です。

 

2.言葉の重要性

 心理学の教科書では、「意識」と「無意識」の関係が海に浮かぶ氷山にたとえられています。海面に浮んで見える意識の部分は、巨大な氷山の一画でしかない、という例えです。

 私は、かなり違うイメージを持っています。

 「無意識」という真っ暗で巨大な空間を、「言葉」がサーチライトのように照らし出し、照らされた部分が「意識」になる、というものです。

 「無意識」には、ものすごいエネルギーを持った「感情」が無秩序に混とんとして渦巻いています。一方、「意識」は「言葉」によって成り立っています。「言葉」は、ルールに従っていて、秩序だっています。だから「意識」は論理的、理性的、合理的なものになります。

 先ほどの、「勉強したいのに、できない」という葛藤は、「意識」と「無意識」の対立です。試験に合格したいなら勉強するのが合理的です。それは、頭で考える「意識」的なことです。しかし、遊んでいた方が楽しいかも知れません。「無意識」は、「感情」に結び付いているから、とても大きなエネルギーを持っています。だから、人は楽しいという「感情」のエネルギーに突き動かされて行動してしまいます。

 多くの人は、頭で考えること(意識)に、やみくもにこころ(無意識)を従わせようとしています。しかし、それでは長続きしません。無理に勉強を続けようとすれば、エネルギー不足になって挫折してしまいます。長続きするためには、無意識にある「感情」のエネルギーを活かさなければいけません。

 「勉強したい」という意識的な取り組みが、こころ奥深く、無意識の中のどんなところからやってくるのか、「無意識」の中を「言葉」のサーチライトでよく照らして、その欲求がどこから来るのかを確かめて、「感情」を満足させるように「意識」して勉強すれば、その勉強によって本当の自分を表現できることになり、長続きするかも知れません。

 こころの健康は、混とんとした「感情(無意識)」を「言葉(意識)」で表現できることだといえます。「言葉」にするから、人に伝えることができて、共有することができます。混とんとした「こころ」を「言葉」で整理して表現して、周りにいる大切な人たちに伝えて、本当の自分を受け入れてもらえた時に「癒し」が得られるのだと思います。

 日本では、昔から、「言霊」と言って、言葉の重要性が認識されていました。また、聖書には、こんな一節があります。

「はじめに言葉ありき。言葉は神と共にあり、言葉は神であった。

言葉は神と共にあった。

万物は言葉によって成り、言葉によらず成ったものはひとつもなかった。

言葉の内に命があり、命は人を照らす光であった。

その光は闇の中で輝き、闇が光に打ち勝つことはなかった」

(『新約聖書』「ヨハネの福音書)より)

 

3.誰に伝えるのか

 対人関係療法という治療法があります。

 「重要な他者」とのコミュニケーションを改善することによって、うつ病、摂食障害などあらゆる精神疾患が軽快するというのです。対人関係療法で定義する対人関係は3層となっています。

 自分を取り巻く第1層の人々を「重要な他者」と言います。これは、毎日、一生、一緒にいる人たちのことです。例えば、子どもにとっては「親」、大人では「配偶者」である場合が多いでしょう。この人たちとのコミュニケーションを改善することが精神的な健康につながります。

 コミュニケーションというのは、感情を伝え合うことです。そのためには、まず、自分の感情に気づかなければなりません。問題になるのは、怒りや悲しみなどのネガティブな感情です。怒ったり、悲しくなった時に、その理由を「言葉」で伝えることが大切です。

 まず、イライラ、不安、怒り、悲しみなど、自分の気持ちに気づき、その理由をよく考えて、言葉で表現して「重要な他者」に受け入れてもらえた時に、自分はこれでいいんだと安心し、こころの健康が得られます。

 第2層は、毎日ではないけど、一生付き合う人のことです。親友や親せきはこのグループに入ります。

 第3層は、毎日会うかもしれないけど、一生ではない人たちです。例えば会社の同僚、上司や部下などがこれにあたります。会社の上司とそりが合わない、と悩んでうつ状態になったと言う方がよくいますが、それは、本当は、「重要な他者」との関係がうまくいっていないことの代理になっている場合が多いのです。例えば、父親とうまく行っていない関係を、上司に投影しているようなことです。

 本当は、職場の人間関係は、仕事さえできればいいのだから、感情はほとんど関係ありません。淡々と、感情(無意識)を抜いて、理性的(意識的)に行動できればよいのです。職場の上司や同僚と分かり合う必要なんて、本当はないんです。

 さあ、勇気を出して、「重要な他者」、毎日一生そばにいる人、親、配偶者、恋人と感情を言葉で伝えあってください。

 

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