自分の物語
[2022.02.14]
勤務医をしていた頃、60代女性の患者さんが、恥ずかしそうにご自身の生い立ちを話してくれました。ご両親のこと、たくさんの兄弟姉妹の中で、下の子たちの面倒を見ながら、我慢していたこと。家族から離れて、奉公のように働きに出た時にはとてもさみしかったこと。結婚して子どもができてからも、ずっと我慢して生きてきたことを話してくれました。
そして、「こんなことを人に話してもいいとは思いませんでした」と最後に言って涙を流しました。すると、それまでたくさんの薬で不安を和らげなければならなかったのに、次に受診した時には、「薬を飲まなくなりました」というのです。
皆さんは、自分の物語を誰かに話すことができていますか。話してはいけないものだと思い込んでいませんか。
人の意識は、言葉でできています(はじめに言葉ありき)。言葉で自分のことを語ることで、こころの闇を整理することができます。だから、精神的な症状が回復するのです。
心理療法は、ただ、話しを聞くだけではありません。物語をつくることを手伝ってくれるものだということもできます。