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一隅を照らす

[2021.01.11]

反面教師のことだけ書くのも、父に申し訳がないので、もう一つ、父のことです。

父は警察高級官僚でした。晩年、前立腺がんで入院していた時に見舞いに行きました。父は一人暮らしでしたから、入院時の連絡先の家族が必要で、それは、妹になっていました。私に弱っている姿を見られるのが嫌だったのでしょう。見舞いに行ったらすぐに、「いいから帰れ」と命令されました。

そして、「お前のような仕事が一番いいんだ。一隅を照らすと言って、そういうのが一番いいんだ」と話していました。父は交通警察のトップに上り詰めた人ですから、全国をあまねく照らしていたのかも知れません。お前は町医者で片隅でも照らすことでたくさんだ、と侮辱されたのかと思い、いつものようにとても不愉快な気持ちで父の元を去りました。

父が亡くなった数年後、家族と京都旅行に行きました。比叡山に行く観光バスに乗ったのです。すると、比叡山には山中のいたるところに「一隅を照らす」と書いてありました。私は、このことだったのかと得心しました。「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」という最澄の言葉でした。誰もが自分がいる一隅を照らせば、きっと良い世の中になるに違いない。

私の座右の銘になりました。藤沢のこのクリニックで、一隅を照らす働きをしたいと思っています。

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