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ジョン・スノー

[2022.03.20]

タバコは、資本主義の優等生と言われてきました。大量生産・大量消費を実現し、巨万の富を得た工業製品だからです。それは、ニコチンの依存性の賜物でした。

この絵は、19世紀初頭、コレラが大流行したロンドンの新聞に掲載された風刺絵です。悪魔がポンプを押して、人々に水を飲ませています。疫学の父といわれるジョン・スノーは、当時空気感染だと信じられていたコレラの流行地域に踏み込んで、ポンプの水が原因であることを突き止めました。しかし、ポンプを運営する水道会社はそれを認めませんでした。
この絵が、風刺絵として新聞に掲載されたということは、多くの人はポンプが原因だと勘づいていたのです。そして、ジョン・スノーは、利益のために命を軽視する水道会社と戦っていました。

最近では、JTが街中に灰皿を置き、飲食店に喫煙可能のシールを配ります。安全ではない加熱式タバコで人々に目くらましをしています。自らの利益のために、人々に、有害なタバコを吸わせ続けようとしています。まるで、ロンドンでポンプを押していた悪魔がよみがえったようです。

近年、資本主義の優等生になったのは、IT産業です。ゲームやスマホにも報酬系を刺激する工夫が凝らされています。だから、多くの人々がゲームやスマホをやめられなくなります。

大量生産、大量消費の社会では、あらゆる商品やサービスを、さらに多く、もっとたくさん作り続け、売り続けなければなりません。そのために、人の脳の報酬系の神経回路が利用されます。
そして、互いが作った商品やサービスをお互いが買い続け、無限地獄のようにつながっていきます。みんな、買ったものの支払いのために、寸暇を惜しんで奴隷のように働いて、売るものをつくり続けます。そうしているうちに、いつの間にか年を取って死んでゆきます。それが、この社会の運命のようです。

タバコを吸うために生まれてきた人はません。スマホやゲームをするために生まれてきた人もいないはずです。しかし、この社会では、普通に生活していると、いつの間にか報酬系を支配され、個性を失い、自分らしさや生きている意味を見失ってしまいます。

私は、私のクリニックでの診療の中で、その人が、その人にとって本当に大切なものを大切にして、その人らしく生きてゆくお手伝いをしたいと思っています。

 

挿絵の出典:スティーヴン・ジョンソン (著),矢野真千子 (翻訳). 感染症地図:歴史を変えた未知の病原体. 河出文庫、2017/12/5. ISBN-13:978-4309464589

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